VOB12(2008/02/29) これからは収支会計の時代
この文書は「これからは収支会計の時代」として税理士新聞2007年9月15日号から三回に分けて連載されたものです。
これからは収支会計の時代①
会計人、会計制度の常識は中小企業にとって非常識!?
ビズソフト株式会社 中尾安芸雄
「常識を疑う正しい力を身につけよう」。東京大学小宮山総長の本年の入学式でのメインメッセージである。日ごろ、当然に思って気にかけないことの中にこそ、社会を変える重要なヒントがあるものだ。会計事務所の常識、とりわけ「会計」に対する認識も、顧問先にとって非常識かもしれない。果たして、顧問先が考える会計とは、どのようなものなのか。
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「会計」は「経理」の中の6分の1
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会計事務所が行っている業務こそ、中小企業の会計業務の中心である。会計事務所の視点では、それは当然のことと思える。会計事務所の世界では、「会計」と「経理」という言葉は大きな隔たりなく認識されている。つまり 会計・経理とは、取引をすべて仕訳にして、元帳へ転記し、試算表、財務諸表を作成することである。この業務が会計・経理の中心であると当然のように考えている面があるのではないか。しかし、あらためて顧問先の立場から考えると、上記の業務は、会計事務所に言われるがままに行っている記帳業務(あるいは、委託している記帳委託業務)であって、実際にはそれ以外に、もっと切実で根本的な経理という業務があることに気づく。
商売を行う上で誰もが必ず行う経理業務というものがある。請求書を発行し、売上帳や売掛帳に記帳し、入金確認を行うなどの請求・回収管理(1)(図参照)。支払請求書を整理し、仕入帳や買掛帳に記帳し、月末の振込み処理など行う支払管理(2)。現金の出納・金庫管理・銀行通帳の記帳・経費精算などの出納管理(3)。勤怠管理や給与明細書の作成、源泉税納付、社会保険処理等などの給与事務(4)。来月以降の資金繰りを試算し、事業計画を作成し融資交渉などを行う資金繰り(5)。そして、仕訳を起票し、元帳、試算表から、財務諸表を作成、納税申告する会計業務(6)。おおまかに分類するとこのような6つの経理の基本業務がある。
顧問先は、会計・経理といえば、明確ではないにせよ、このような6つの業務を思い浮かべる。(6)の会計業務は、顧問先にとっては、実はもっとも緊急性の低い業務に見える。(1)から(5)は、強制されなくても、また、教えられなくても必ず我流ででも行う必要がある業務である。他方、会計業務は、税務署を経由して納税手続きをしなければならないという意識が働いてはじめて実践する傾向が強い。つまり、会計事務所の考える「会計」は、顧問先にとっては、6分の1あるいはそれ以下の重要性しか感じていない場合が多い。
所有と経営が分離していない中小零細企業が圧倒的に多いこの国では、経営者から株主への説明責任は希薄であり、したがって本来の会計の存在する土壌がない。納税義務によって顕在化する納税会計こそが、現在の会計の中心である。
会計事務所が考えている「会計」は、顧問先にとっては「経理のほんの一部」でしかない。このような視点は、これから会計事務所のビジネスを考える上で非常に重要ではないか。
たとえば、経理の6つの基本業務の中で、(5)の資金繰りに関して、会計事務所は従来積極的に関わらなかった。理由はいくつか考えられる。ただ、一番大きな理由は、会計が経理のほんの一部でしかないという視点が欠如していたことが大きいのではないか。必ずしも計算が得意ではない顧問先が我流ででも行う資金計画の領域に会計事務所が関与しない手はないと考えてみる、そういう視点である。顧問先が喜ぶことには積極的に進出しなければならないし、いずれ誰もが行うようになる。
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「利益」の意味が分からない!
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顧問先にとって緊急性の低い会計は、さらにやっかいなことに常識で理解できる内容ではない。経理の6つの業務のうち会計以外は多少勉強が必要な面はあるにせよ常識の範囲で理解できるが、会計は専門性が高く一般的には理解できない。会計が納税会計である現状はさらにその専門性を高めている。
会計事務所 「今期はかなり利益が出ますね・・」
顧問先 「それでは、さっそく銀行借入を返済しましょう!」
こんな会話が実は未だに現実に存在する。会計事務所が日々当たり前のように計算している利益金額と所得金額の計算過程を、顧問先はどれくらい理解しているだろうか。9割以上の顧問先が、間違いなく理解していないはずである。曖昧な数字、理解しない数字は経営には役に立たない。しかし、会計事務所は何十年も前から、利益を中心に説明する。つまり、財務諸表が理解できないのに、財務諸表で説明する。
経理の6分の1の会計業務、しかも専門知識が詰まった世界のことなどわかるはずもない。会社経営全体から見れば経理業務自体が10分の1くらいのウエイトしかないのが実情である。会計学の勉強をする時間などない。今期の利益は○○万円ですと言われても実感がない。銀行に返済すればお金が減るのだから、税金が安くなると考えるのは、決して笑えないことである。この経営者は即座に我流節税案を考えただけでも優秀だと思う。自分は英語が得意だからと言って、英語が話せない相手に英語で説明するのは少し不親切である。会計事務所と顧問先の関係も似てはいないか。(つづく)
れからは収支会計の時代②
損益より収支、過去より未来
なぜ、資金繰りを守備範囲にしないのか?
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シャウプ税制施行から約60年
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会計事務所にとって「会計・経理」は、会社法や税法でも計算体系のベースになっている「適正な期間損益計算」を行うことが第一義である。他方、会計のプロではない顧問先にとっては、会計事務所の守備範囲である「会計」は、日常のさまざまな「経理」業務の6分の1くらいの重みしか持っていないことを前回説明した。このことは、税理士あるいは税理士制度というものをどのように捉えるかによって、まったく異なる議論となる。税理士を、申告納税制度の理念にそって納税義務の適正な実現を図ることだけを使命と考えれば、「会計」が「経理」の6分の1であることにあまり問題はない。しかし、税理士を、数字や法律に強いという特性を活かした中小企業の経営支援サービス業と考えれば、6分の1は問題と思われる。顧問先の立場になって考えれば、会計という難解な数字ではなく、経営者が肌で感じることができる資金繰りのアドバイスを聞きたいと思うはずである。資金ショートを起こさないことが事業を継続することであると経営者はわかっているが、その数字は会計事務所ではなく経営者自身あるいは会社側で管理している。第二次世界大戦後、いわゆるシャウプ税制が施行されて60年近くも経過するのに、未だに多くの会計事務所は、顧問先の資金繰りを計算することができないでいる。これは非常に不思議なことである。ニーズがあるのにそれを解決するサービスが育たない。「会計」よりも経営上重要度が高い「資金繰り」を会計事務所が守備範囲とすれば、顧問先にとって会計事務所の存在価値は一層高まるに違いない。しかし、未だにサービスが普及しないということは、おそらくそこには理由が存在するはずである。それはいったい何なのだろうか?
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資金繰りを守備範囲にできない理由
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理由の一つとしては、会計事務所が会計だけ、つまり税務会計の領域だけで収益を上げることができたことが大きかった。(税務)会計だけで年間50万円から100万円の顧問料を獲得できた時代が長く続いた中では、敢えてサービス向上に踏み切る動機付けが薄かった。ただし1社あたりの平均顧問料は長年上昇することはなく、近年は、下降傾向にあると言われている。今や(税務)会計だけで顧問料を維持することは困難になって来ている。もう一つの理由は、資金繰りのツールがなかったことである。会計業務は、専用機・PC用パッケージソフトが開発され、会計事務所の業務を効率化してきたが、それでも会計事務所の業務は、未だ顧問先自計化率は平均40%程度で停滞しており、税務会計以外の分野に進むことができなでいるのが現状である。この中で、さらに(税務)会計とは別個の計算体系である資金繰り計算をカバーすることは現実的には無理がある。他に理由もあるが、おそらくこの2つが、戦後60年間も大きな変化が生じなかった主要因であると考える。従来のサービス内容では顧問料は高いと感じる顧問先が増加している今こそ、会計事務所は資金繰りも含めた経営数字のアドバイザとしてそのサービスの変化を顧問先に提示する必要があるのではないか。
では、なぜ資金繰りのツールがなかったのか。勿論、資金繰り・資金計画のソフトは表計算ソフトのテンプレートまで含めると数多く存在する。ただし、従来のソフトは根本的に2つの問題点を解決していない。まず第一に、損益会計を理解していることを前提に資金繰りソフトが開発されていることである。顧問先の立場で考えればわかることだが、損益会計は十分には理解できていないのであるから、損益会計の計算体系をベースにそれを資金繰りつまり資金収支計算に変換しても、顧問先には理解できない、つまり経営に役立てることはできないのである。顧問先が理解可能とするためには、損益会計から一切離れ収支計算をベースに、つまり家計簿と同じレベルで理解できるようにしなければならない。第二は、リアルタイムに情報を収集する仕組みがないことである。損益会計のように過去の事象を扱うのと違って、資金繰りは、未確定要素を含めて計算しなければならない。大企業の予算管理とは異なり、中小零細企業では、経営者の勘も含め日々流動的に動く情報を常時反映させなければ経営に有用な資金繰り数字とはならない。現場の経理業務と社長の予測を織り交ぜて計算できるソフトの仕組みが必要である。
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ITの進化で強力ツールが誕生
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しかし、現実には資金繰りを計算することはさらに容易なことではない。会計事務所が顧問先の資金繰り予測の計算を依頼されたとする。会計事務所が所持する情報は、先月締め日までの売上と仕入の請求情報と、先月末時点での現預金等の残高までである。得意先ごとの請求、仕入先ごとの請求に対して、その回収予定日、支払予定日の情報が無い。また、今月見込みの売上仕入請求額を社長・営業などから聞き取らなければならない。このように、過去の確定計算である損益会計と比較しても、よりタイムリーな情報を日々集積しなければならないのである。FAX・メールなどを使って表計算ソフトで対応できるものかどうかは容易に判断できる。数社なら可能かもしれないが、顧問先への標準的なサービスにするには無理がある。しかし、ITの進化は、このような難題も解決するツールを提供しはじめた。会計事務所が顧問先の経営数字全般の相談に対応することは、もう現実的に可能な時代になったのである。(つづく)
こらからは収支会計の時代③
損益会計の一辺倒から脱却すべき
会計事務所が顧問先の資金調達をサポートできない理由として、前回は「会計」に対する捉え方の違いを説明した。今回は、会計事務所が資金繰り計算まで業務を拡大できない技術的な原因と、その解決策を解説する。
資金繰りが計算できない4つのウィークポイント
会計事務所が顧問先の資金繰り計算まで業務範囲を拡大することが難しい技術的な原因は、主に以下の4つである。(1)取引ごとの回収予定・支払予定などの決済情報を網羅的に入手できない、(2)計算時点での売上・仕入等に関する予測数値を網羅的に入手できない、(3)入手した情報から効率的に資金予測を計算するツールがない、(4)顧問先から情報をリアルタイムで入手するツールがない。これらの原因が解決されれば、会計事務所は顧問先の資金計画や短期資金繰りも把握することが可能となり、期間損益計算以外にもうひとつ重要な計算体系である収支計算を業務に取り込むことができる。
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事務所業務を拡大させる新しいシステムに注目
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では、この4つの原因を解決するには、どうすればよいのだろうか。まず、(1)に関して、相手先ごと、取引ごとの回収と支払に関する決済情報を漏れなく入手するには、日々の経理業務と連動して情報を収集する仕組みが是非とも必要である。顧問先に対して、資金繰り計算のために別途事務作業を負担させることは現実的ではなく、また、顧問先に常駐しているわけではない会計事務所員がその作業を担当することも無理である。つまり、営業事務や支払管理などの経理業務を行うことと一体化しているシステムが必要である。
次に(2)に関して、予測数値は、予算制度が運用されている中堅・大企業と違い、中小企業では社長の頭の中に入っている場合が多い。資金繰りを考える場合にも、社長が会計とは別系統で独自の計算(暗算?)を行っている。この予測数値を常時継続して書き込む(書き込みたくなる)ことが必要になる。書き込む動機付けは、社長が理解できる形式であることと、正確かつ簡単に計算されることである。このようなシステムがやはり必要となる。
さらに(3)に関しては、経理業務と一体化したリアルタイムな決済情報と、社長の勘も含めたリアルタイム予測数値とを連結させるシステムが必要となる。会計では、請求書を発行すれば売上が計上されるが、資金繰りでは、その回収予定値が計算対象となる。しかも、これから発行する請求書の回収予測値までも計算対象としなければならない。予定だけではなく、予測・予想までもが一体的に計算されるシステムが必要である。
以上の3つの原因解決方法を、すべて同時に解決したソフトウェアはすでに実現している。経理業務の中の会計処理を行うソフトウェアは「会計ソフト」と呼ばれる。他方、損益計算ではなく資金繰り計算を制度会計・複式簿記から離れて行うソフトウェアを「収支ソフト」と呼称することとする。収支ソフトは、未来の決済情報を主に扱うため、この3つの課題を同時に解決していなければならない。
さて、最後の(4)の課題は、従来は解決不可能な課題であった。ITの進歩が特に必要な課題であったが、最近、Microsoftが発売した「Groove(グルーブ)」というソフトウェアは、顧問先からリアルタイムに情報を入手する一つの解決方法を実現する画期的なソフトウェアである。会計ソフトや収支ソフトのデータ、その他ファイルサイズにほとんど制限なく、簡単・安全・迅速に情報を共有できるソフトウェアである。収支ソフトとGrooveを組み合わせることにより、会計事務所は顧問先の資金繰り計算を完全に業務に取り込むことができるのである。
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損益会計と収支会計は車輪の両輪に値する
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中小企業にとって損益会計よりも資金繰り計算を行う収支会計の重要性がより高いと述べたが、これは勿論、利益計算、損益会計を軽視しているわけではまったくない。経営状況を把握するためには会計の仕組みは必要であり、また、納税額の計算のためにも必要である。ただ、会計事務所はいままで、損益会計一辺倒であり収支会計を軽視してきた。顧問先の経営にとって重要な収支計算を会計事務所が把握でき、相談業務としてアドバイスが可能となることは、多くの顧問先にとってメリットが大きい。
会計事務所業界と会計ソフトウェアメーカーは、自計化という視点で、長年にわたり、顧問先に会計ソフトによる会計を押しつけていた面はなかったか?自計化であろうが記帳代行であろうが、顧問先のレベルとニーズに合わせて、税務と経営支援を行えることが大切である。
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収支会計という分野にはブラックボックスがない
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収支会計は、社長の売上予測数値を扱うため、社長とのコミュニケーションが必然的に発生する。過去会計、つまり前月の試算表を前にした話しから、経営の最前線にジャンプすることになる。この数字に興味を持たない社長はまずいない。会計事務所が税務という専門分野を離れて社長と経営数値の話しをする厳しい場所かも知れない。収支会計には専門知識はいらないので、ブラックボックスはない。当然、現実的・具体的な商売の話しであり、経営の相談相手として真に活躍できるフィールドではないか。税務等の専門分野の知識と、多数の顧問先事例を体験できる職業上のポジションを活かして顧問先の経営支援をするために、会計事務所が収支会計という武器を持つことを期待する。(おわり)

